
「ビジネスを成長させるには、人との繋がりが大切だ。」
巷のビジネス書やセミナーでは、耳にタコができるほど繰り返される言葉です。
しかし、セレクトショップを経営して十数年。現場の最前線で数字と向き合い続けてきた私が辿り着いた結論は、その真逆でした。
「経営に、繋がりなんて必要ない。」
これは決して冷笑的な意味ではありません。
不特定多数のお客様を相手にする小売業において、また、シビアな条件が求められるブランドとの仕入れ交渉において、個人的な「繋がり」がプラスに働いたことなど一度もなかったからです。
むしろ、中途半端な人付き合いは、経営者が最も大切にすべき「思考の時間」を容赦なく奪っていきます。
今回の運営日記では、世間一般で言われる「人脈」の正体を暴き、なぜ今、私たちが「孤独な集中」を取り戻すべきなのか。
その理由を、私自身の経験に基づき、忖度なしでお話ししたいと思います。
ビジネスにおける「人との繋がり」は本当に必要か

起業すると、まるで呪文のように「人脈を広げろ」「交流会に行け」というアドバイスが飛んできます。
しかし、私はこの言葉にずっと違和感を抱き続けてきました。
結論から言えば、ビジネスにおける「繋がり」は、多くの場合、実体のない幻想に過ぎません。
特に、自分の力で商いを行い、お客様に価値を提供する小売業の世界において、誰かと繋がっていること自体が直接的な利益を生むことは、驚くほど少ないのが現実です。
十数年の経営経験で感じた違和感
セレクトショップを経営して10年以上が経ちますが、振り返ってみて「あの時、あの人と繋がっていたから事業が助かった」と思ったことは一度もありません。
むしろ、成功している時も苦しい時も、状況を左右したのは常に「自分が市場に対してどのような価値を提示できているか」という一点のみでした。
交流会で名刺を交換し、お酒を酌み交わしたところで、ショップの在庫が減るわけでも、魅力的な商品ラインナップが完成するわけでもありません。
経営の本質から目を逸らさせる「馴れ合い」こそが、成長を鈍らせる要因ではないかとさえ感じています。
「人脈が大事」という言葉の正体
では、なぜこれほどまでに「人脈」という言葉が神格化されているのでしょうか。
その正体は、多くの人が抱く「他人の力でなんとかしたい」という甘えや、一人で決断することへの不安の裏返しではないかと思うのです。
「誰かを紹介してもらえるかも」「誰かが助けてくれるかも」という淡い期待は、経営者に必要な自立心を削ぎ落とします。
本来、ビジネスとは孤独な戦いであり、その孤独を埋めるための繋がりは、単なる「時間の浪費」に他なりません。
本当の意味で事業を好転させるのは、他人の力ではなく、自分自身の思考と行動の積み重ねだけなのです。
小売業の現実は「繋がり」では解決しない

ビジネスにおいて「繋がり」が軽視できないとされるのは、それが利益に直結すると信じられているからでしょう。
しかし、エンドユーザーを相手にする小売業の世界では、そのロジックは通用しません。
現場で直面するのは、もっとシビアでドライな現実です。
友人の多さと売上の安定は比例しない
「友達が多ければ、オープン当初からお客さんに困らない」と考える人もいますが、それは大きな間違いです。
友人が義理で買ってくれるのは、せいぜい一度か二度。
その数件の「義理の売上」が、毎月の固定費や仕入れ代金を支え、事業を安定させてくれることは絶対にありません。
不特定多数のエンドユーザーに支持されて初めて、小売業としての歯車が回り出します。
身内の顔色を伺うよりも、見知らぬ誰かが「どうしても欲しい」と思う店作りをすること。
そこに友人の数や人脈の広さが介在する余地はないのです。
仕入れの壁:コネよりもブランドとの戦略がすべて
仕入れにおいても「繋がり」の無力さを痛感してきました。
憧れのブランドと契約したい時、誰かの紹介があればスムーズにいくかと言えば、答えは「NO」です。
人気ブランドであればあるほど、既存店とのバッティング(商圏被り)や、ショップのコンセプト、販売能力をシビアに見ています。
たとえ担当者と個人的に仲が良くても、条件が合わなければ契約には至りません。
逆に、なんの繋がりもなくても、こちら側に圧倒的な提案力と「売る力」があれば、道は開けます。
結局、最後にモノを言うのはコネではなく、ビジネスとしての実力なのです。
専門家(税理士)とはあえて距離を置くべき理由
また、実務を支えるパートナー選びにおいても、繋がりはむしろ邪魔になります。
典型的なのが税理士です。
知り合いや友人に税理士を頼むと、仕事の質に不満があっても、情が移って契約を切りにくくなります。
ビジネスを健全に保つためには、常に最適なパートナーを選び直せる状況でなければなりません。
あえて「知り合いではないプロ」と契約し、数字に基づいたドライな関係を築くこと。
その方が、いざという時に経営者として正しい決断を下せるのです。
紹介される仕事が「事業の安定」を邪魔する

人脈を広げていると、時折「こんな仕事があるんだけど、やってみない?」という誘いが舞い込むことがあります。
一見、ビジネスのチャンスが広がったように感じるかもしれませんが、これこそが経営を迷走させる罠(わな)です。
本業で稼げていれば、余計な繋がりはいらない
そもそも、エンドユーザーに価値を届ける小売業として、本業でしっかりと利益を出せていれば、外部から持ち込まれる「紹介案件」に頼る必要はありません。
本当に必要な仕事は、自分のショップをより良くすることであり、お客様を喜ばせることです。
もし、人からの紹介がないと立ち行かないのであれば、それは事業モデルそのものに欠陥がある証拠。
本業に100%の力を注ぎ、自力で稼ぐ仕組みを作ることこそが、経営者が最優先すべき事項であり、それができていれば外側の「繋がり」を追い求める必要はなくなるのです。
単発の仕事はリソースの無駄遣いである
人脈経由でやってくる仕事の多くは、単発のバイトのような小規模なものばかりです。
その場しのぎの売上にはなるかもしれませんが、事業の「安定」や「積み上げ」には一切寄与しません。
こうした仕事を引き受けるたびに、自分の時間とエネルギーは削られていきます。
経営資源は有限です。
目の前の小さな利益に釣られてあちこちに手を出すことは、本業の成長を遅らせる大きな損失でしかありません。
「繋がりがあるから断りにくい」という理由で引き受ける仕事が、あなたの店を強くすることはないのです。
繋がりが奪うのは、経営者にとって最も貴重な「時間」

多くの人が「繋がり」を増やすことに奔走する中で見落としているのは、その代償として支払っている「時間」の重さです。
経営者の時間は無限ではありません。
誰かと会う、誰かのために動くという行為は、自分の事業を成長させるための時間を確実に削り取っているのです。
選択と集中こそが成長の鍵
事業の成長に不可欠なのは、「何を選択し、何に集中するか」を明確にすることです。
セレクトショップであれば、次シーズンの買い付けの構想を練る、店舗のディスプレイを細部まで磨き上げる、データを見直して顧客ニーズを深く分析する。
こうした泥臭く、しかし本質的な作業には膨大な時間とエネルギーが必要です。
意味のない会食や、顔を出すだけの集まりに時間を費やしている暇はありません。
不必要な繋がりを断ち切り、生み出した空白の時間をすべて本業に注ぎ込む。
この「集中」の深度こそが、他店との圧倒的な差を生むのです。
他人の力をあてにするリスク
「繋がりを言い換えると、他人の力に頼るということ」になります。
しかし、残念ながら、自分以外に自分の人生や事業を心から助けてくれる存在などいません。
他人の力や紹介をあてにして動いていると、いざその繋がりが途絶えた瞬間に足元が崩れ去ります。
それは、自分の事業のハンドルを他人に握らせているのと同じです。
外部の力に依存せず、自らの足で立ち、自らの手で事業を好転させていく覚悟を持つこと。
他人に期待しないという強さこそが、経営における最大のリスクヘッジとなるのです。
孤独の中で「思考を深める」ことの重要性

繋がりを断った先に待っているのは「孤独」です。
しかし、この孤独こそが経営者にとって最もクリエイティブで、最も生産的な時間となります。
誰にも邪魔されず、自分の内面と事業の数字にのみ向き合う時間は、何物にも代えがたい資産です。
自分の事業を救えるのは、自分しかいない
厳しいようですが、これが経営の真理です。
市場の動向が変わり、売上が落ち込み、岐路に立たされたとき、最後の一手を決めるのは自分だけです。
周囲のアドバイスや人脈が、決定的な解決策を授けてくれることはありません。
自分の人生と事業に責任を持てるのは、世界中で自分一人だけ。
その覚悟が決まったとき、初めて事業は本当の意味で動き出します。
誰の助けも受けずに、自らの意志で事業を好転させていく。
そのプロセスこそが、経営者としての本当の強さを育ててくれるのです。
静かな場所で問題点と解決策を考え抜く
では、具体的に何をすべきか。
それは、意識的に「静かな場所」を作り、事業のことに没頭できる状況を整えることです。
スマホを置き、外部のノイズをシャットアウトする。
そして、自分の置かれている現状を冷徹に整理し、浮き彫りになった問題点に対する解決策を、脳がちぎれるほど考え抜く。
言葉にすれば簡単ですが、日々の「繋がり」に追われていると、この最も基本的で重要な時間が作れません。
静寂の中で思考を深め、自分なりの答えを導き出す。
この「考え抜く力」こそが、成果を生むための最短の近道なのです。
成果への最短距離は、自分の事業に没頭すること

「人との繋がりを大切にしない」と言うと、冷たい人間だと思われるかもしれません。
しかし、一人の経営者として自分の事業と、そして自分を信じて支えてくれる家族やお客様に対して誠実であろうとすれば、自ずと答えは一つに絞られます。
「繋がりに意味はない。自分の事業に没頭することこそが、すべてである」ということです。
他人の力に頼ることをやめ、自分の人生の舵(かじ)を自分だけで握る覚悟を決める。
そして、確保した貴重な時間をすべて事業の改善と成長に注ぎ込む。
このシンプルで潔い生き方こそが、結果として最も早く、最も確実に成果へと辿り着く方法だと確信しています。
まずは、予定表にある「義務的な集まり」を一つ消すことから始めてみてください。
そして生まれたその空白の時間に、一人静かな場所で、ご自身の事業の未来についてじっくりとペンを走らせてみてはいかがでしょうか。
そこから始まる「孤独な挑戦」の先にこそ、本当の意味での成功が待っているはずです。
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